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26
2002

バイーア生まれ

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最近、酒を飲むと異常にものを忘れる。
ちょっとこれは記憶喪失に近いんじゃないか、と思う。

まず、人と会ったことを忘れる。名前を忘れる。顔も忘れる。
何を言ったのかも忘れる。何をしたのかも忘れる。殆どボケ老人に近い。
昨日のアンテナオフと爆音でも覚えていないことの方が多いけど、本当に
楽しかった。普段話さない人と色々話が出来て、本当に楽しかった。
最近あまりモーオフしてないからか、ほんと、異常に楽しかった。

話の内容は、つまるところ「よっすぃーは可愛い」「加護ちゃんは可愛い」
「りかっちは可愛い」「辻ちゃんは可愛い」と言うことであり、毎回毎回同じ
ことばかり話していて良く飽きないなあ・・・と思うけど、何故か本当に全然飽きない。
酒に酔って、加護ちゃんにも酔ってる感じというか・・・。「加護ちゃん可愛いなあ・・」
と考えたり言葉に出したりするだけで、なんでこんなに幸せになるのか。

あまりに幸せすぎると「もしかして部屋に帰ったら加護ちゃんが居るかも・・?」等と
いう根拠ゼロの妄想が次々と湧いてきて、このレベルに達すると実に危険だ。
酔っている間は娘。達と結婚できる気満々で本当に幸せだが、酔いが醒めた時に反動が
大きいのだ。この反動は、大体駅のホームで始発を待っている時にやってくる。


頭が痛く、吐き気がする。誰かに寄っかかりたい。
でも、隣には誰もいない。横には自分と同じような酔っぱらいが突っ伏して眠りこけている。

なんだ、これは?
この現実は?
どうして俺の隣には圭ちゃんがいないんだ?
どうして圭ちゃんは迎えに来てくれないんだ?
俺は圭ちゃんと結婚しているはずでは無いのか?
ああ・・・・・寂しい。寂しい寂しい寂しい。


・・・そして家に帰り、嘔吐し、歯磨きをして寝るというのがいつものパターン。狂人。
最近、この「圭ちゃんが迎えに来てくれる妄想」が激しくて困っている。

「・・あ、圭?・・・・酔っぱらっちった・・・」
「コウジ?また飲み過ぎたの?・・・・っとにもう・・・・!」
「酔っぱらっちった・・・・ょっぱらっちった・・・」
「・・・・・何処にいるの?新宿だっけ?」
「・・そう」携帯の向こうから、圭の深い溜息が聞こえた。
「・・・分かったよ。迎えに行くよ。こないだみたいに道で寝たりしないでよ。ちゃんと待っててよ」
「あーい・・・」

僕はすぐにその約束を破り、知らない店のシャッターにもたれかかった。
おぼつかない手でヘッドフォンを装着し、ブロッサム・ディアリーの"I like London in the Rain"を
再生する。

Feel the Coolness in the air
A Lot of Rain fall in my hair.....

濡れるのは嫌だが、雨が見たかった。白んだ朝にブロッサムの声とエコーがやけに馴染んでいた。
寒いからなのか、飲み過ぎたからなのか、身体が震える。頭の奥が重いが、吐き気は無い。
何か食べたい。コンビニはすぐ隣にあるが、そこまで動く気がしない。
僕は往来を眺め、ただぼーっとブロッサムの歌を聴き続けた。

"Like Someone in love"が終わった頃、圭の車がやってきた。
僕はバド・パウエルが弾く"Like Someone in love"が聴きたくなったが、そのアルバムは多分、
圭の車には乗っていないだろう、と思った。僕はよろよろと車に近づき、助手席のドアを開けた。
「・・・けっ、けけけけ圭ちゃんごみんに!」僕は良く分からないことを言った。

「ごみんにじゃね~よ・・・ったく!うわっ臭い・・あんた一体何杯飲んだの?」
「わかんない」カーステレオからはボブ・ドロウの"Three Is A Magic Number"が流れていた。
圭らしい選曲だな、と思うと、思わず頬がにやけた。
「何笑ってんの?も~・・・ほんっとにいい加減にしてよね。私だってずっとこっちにいる訳じゃ
ないんだから・・・」僕は、運転している圭の横顔を眺めた。圭は運転中は眼鏡をかけている。
僕は眼鏡をかけている圭を見るのが好きだった。普段は照れくさくて「ちょっとかけてみて」等とは
言えず、こうして車で迎えに来てくれた時にしか拝めない貴重な瞬間なのだ。
もう、そういうことを言うのが照れくさくなってしまう位の時間を、僕らは一緒に過ごしてきた。

「どうする?うち来る?」
僕は頷いた。早くシャワーを浴びて、歯を磨いて、圭と一緒に布団に潜り込みたかった。
このまま眠り込んだら起きた時に吐いてしまいそうだったので、僕は起きていることにした。
僕はステレオのボリュームを上げた。曲は予想通りデ・ラ・ソウルの"Magic Number"に変わっていた。

「3は魔法の数字・・・・ってあっちの童謡かなんかなんだっけ?」
「ん・・・知らない」圭は興味無さそうに答えた。全く、女ってやつは曲名さえ覚えようとはしない。
でも、そんな無頓着な圭のことが僕は大好きだった。

次の曲はアルゾ&ユーディンの"Hey Hey Hey, She's O.K."だった。圭はボリュームを下げた。
そう言えばあのアルバム圭に貸したままじゃなかったっけ。「なあ・・・・・」「ん?」「いや、なんでもない」
その音は、明らかに盤起こししたと思われるあの、独特な籠もった音だった。誰かが壁の向こう側からこっちに
向かって歌っているようなそんな音像。

それを聴いている内に、僕はいつの間にか眠りに落ちていた。
圭の髪の匂いが近くなった。僕は圭に寄っかかっているのだろうか。

圭・・・・・。