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18
2003

I will

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どうも、最近書いたものを消してしまうことが多い。
暴力的、独善的、狂気的、悲観的な結末。そして、誰からも見捨てられる妄想…。

相変わらず細かいことがいちいち気にかかってしょうがない。
そして、それを吐き出すのはやはり妄想の中であり、正確に言うなら僕はそれを
吐き出す光景を漠然とイメージすることしかできない。そして、その行為にどれ
だけの意味があるのかが良く分からなくなってきた。

最初から分かり切っている、単なる現実逃避……。

と、言いつつも、一歩その世界に入りこんでしまうともうどうしようもない。
なっち先生のエプロンに飛び込んで、思いきり泣きたいんだ。それしか考えられない。
握手した時のなっちの表情は、本当に優しかった。

「どうしたの?うたかくん、何が言いたいの……?何でそんなに悲しそうにしてるの?」

僕は事前に言うことを散々考えたが結局まとまらず、「なっちは俺の菩薩です、頑張っ
て下さい!」とお茶を濁すつもりだったのだ。事前に決めたことを言うだけの簡単なこ
とだ。握手する「死の瞬間」においても、僕は理性を失わずそれを実行できる自信があった。
また、今までの握手会でもそれは成功してきた。

でも、僕はその瞬間に全く違うことを口走っていた。
「なっち先生、今度、お遊戯教えて下さい……」

なっちはきっと「この人何言ってるんだろう…?」と思ったのだろう。困ったような
表情を僕に向けた。だけど、その表情の奥にはもっと大きくて優しいものがあった。
「慈悲」とも呼ぶべきその感覚は(加護ちゃんにもそれを感じた)、僕を完全に幼児化
させた。僕は、本当に子供になった。





僕は、本当になっち先生にお遊戯を教えて欲しかった。そして、それまでにあった
嫌なことを全部告白したかった。みんななっち先生のことが大好きだから、甘えられ
るような機会は滅多に無いのだ。でも、なっち先生はいつもみんなのことを気にかけ
てくれている。こんな僕のことも…。

僕はなっち先生にお遊戯を教えてもらったことが一度も無かった。
僕はひねくれたり、他の先生に連れてかれたりで、本当に教えてもらいたかったなっち
先生と素直に遊べたことが一度もないんだ。僕は、いつもそれを見る度羨ましかった。
もし、もっと素直になれたら。もっと、素直に泣けたら。怒れたら……。

なっち先生は僕になんて言ってくれるだろう。
なっち先生は、僕をどうやって怒ったり、諭したりしてくれるんだろう……。

僕の感じてきた「正しい」ことは、なっち先生の「正しさ」と少しでも重なるところが
あるだろうか。なっち先生がその身の内に持つ正義は、僕にも備わっているだろうか。
もし備わっていなかったら、なっち先生は僕を見捨てるだろうか。

いや、なっち先生は、僕なんかでもきっと救ってくれる!
それだけは信じられるんだ。どうして正しいのかは分からないんだけど、僕はそれを
いつか説明しなければいけないんだろうけど、なっち先生は本当に正しいと思うんだ。


…なっち先生に聴かせたい曲があるんだ。
ボブ・ドロウの"I've got just about everything"って言う曲なんだ。僕も英語の意味は
良く分からないけど、この曲を聴いてると、歌ってることの意味がすごく分かるんだ。
言葉が分かるって言うより、「感じ」で分かるんだ。それで、この曲を聴くとね、
なんでだか知らないけど好きな女の子のことを考えちゃうんだ。それで、とても幸せに
なるんだ。なんでだか分からないけど、鼻歌を歌いたくなったりしちゃうんだ。

なっち先生には秘密にしてたけど、僕には好きな女の子がいるんだ。





「へえ……こうちゃんは誰が好きなの……?先生にだけ、教えて?」
なっち先生は、そうやって僕の口元に耳を寄せた。僕は、なんだかとてもドキドキした。
なっち先生のことを好きだと言っていいか分からなかったから。それは、言っちゃいけな
いことのような気がしたし、怖かったから、僕はひとまず、普段考えている好きな子の
ことを言うことにした。それでも、心臓は凄くドキドキした。

「あのね、あいちゃん…………」

「あ、こうちゃんやっぱりあいちゃんが好きなんだぁ…先生、そんな感じはしたよぉ??」

僕はあわてて続けた。「…あのね、でもね。僕、よっすぃーも好きなんだ……。……あと、
まつ組のまりっぺも好き……。あと、居なくなっちゃったけい先生も好きなんだ。あと、
あと……」僕は、好きな女の子の名前をなっち先生にまくしたてた。ここで言わないと、
大好きな女の子達が居なくなってしまうような気がした。それでいて、その僕の好きな
女の子達の名前を言うのは悲しい行為だった。でも、なっち先生の前で言っておかないと、
僕はいつまでもそれを言うことができないような気がした。そして僕は、いつの間にか泣いていた。

なっち先生は僕の頭を撫でてくれていた。
「そっか……こうちゃんは好きな子がいっぱい居るんだね……」

僕は、なっち先生のエプロンをもう一つ、力強く握った。なっち先生が僕を許してくれて
いるのが分かった。僕は、その女の子達と仲良くしたことはあまり無かった。みんな、
それぞれ仲の良い友達が居るみたいだったし、僕はそういう中に入っていくのは苦手だった。
なっち先生はみんなと遊ぶのに一生懸命だったし、僕はしょうがないから、いつも一人で
砂場の穴を掘ったりしていた。それでも、不思議と寂しくは無かった。





…隣のやつが高い山を作るなら、僕は一番深い穴を掘ってやる。山から流れる水も絶対に
低い所に流れるし、僕の穴はそれを全て飲み込んでやるんだ。僕は、ただ穴を掘り続けた。
一回だけ、好きな女の子が、僕の穴を掘るのを手伝いに来てくれたことがあった。手伝うと
言うより、女の子はただその穴の深さに興味があったのかも知れない。僕にとって、そして
多分彼女にとって、それはとにかく深い穴だった。


僕らはとにかくそれに熱中した。
手伝いに来てくれた女の子、柴ちゃんと僕は、色々なことを話ながら穴を掘り続けた。その
話の内容については、もう憶えてはいない。でも、僕と柴ちゃんの間には確かなことが一つ
だけあった。それは、このまま掘り続けていったら、みんなをびっくりさせるようななにか
が出てくるに違いない、と言う確信だった。柴ちゃんと僕は、それにドキドキしていた。
そのドキドキを、二人で成し遂げるということにドキドキしていた。僕は心強かった。
好意を抱いた女の子と苦しみを分かち合うことを。誰も見向きもしなかった「穴掘り」に
柴ちゃんが参加してくれたことを。僕は、無我夢中でそれを掘り続けた。



気づくと、僕の前には柴ちゃんは居なかった。

それどころか、庭にいるのは僕だけだった。僕は、時計を見た。
僕には時計の読み方が良く分からなかったが、それは、「みんなが先生と一緒になにかをして
いる時間」だと言うことは良く分かった。僕は、先生とみんなに申し訳なく思った。教室に
入ったら何を言われるのだろうと思った。僕は、みんなに「めいわく」をかけているのだ。

僕は、教室に入って先生に謝った。
でも、先生には何も言われなかった。だから、僕は安心して席に着いた。みんなは折り紙を
折っていた。折り紙は、僕も見たことがあるし、折ったことがあった。でも、みんなが集中
している今のその作業が一体何なのかが分からなくて、僕は混乱した。そして、先生はその
作業について一切僕に説明してはくれなかった。僕は、それは悪いことをした「つみ」なの
だろうと思った。そして、僕はなっち先生のことを思った。


僕は、おかあさん達の話すことに耳を澄ませていて、僕の好きな女の子たちが誰のことを好き
なのかを知っていた。それは、僕にとっては本当のことだった。人のことを驚かせたり、
殴ったりして言うことを聞かせるやつのことを見ているより、それは本当のことだった。
そして、その僕の「情報」によると、僕の好きな女の子は、ほとんど、殴ったり驚かしたり
してるやつのことを好きになっていた。やつらはまず、かけっこが速かった。
そして、僕はかけっこがどうしようもなく遅かった。





柴ちゃんも、まりっぺも、あいちゃんも僕とは無関係に楽しく遊んでいるようだった。
でも、そんな時でもなっち先生は、たまに僕の手を握ってくれた。さっきも言ったように、
みんななっち先生に甘えたいのだけど、あんまりなっち先生に人気があり過ぎてなっち先生が
みんなの相手をできないことを、僕だけでなく、みんなが分かっていた。

それでも、なっち先生は僕の手を握ってくれた。
なっち先生は僕の名前を憶えていてくれた。僕は、それがうれしかった。うれしくて、うれし
くてたまらなかった。僕は、他の先生に何も言うことはなかったけど、なっち先生には色々な
ことを喋った。そして、喋り終えた後、いつも泣きそうになった。でも、泣かなかった。
泣いたら、なっち先生がまた心配してしまうだろうし、僕はその泣いた理由をなっち先生に
説明できなかったからだ。照れくさくて、そんなことは言えなかった。


なっち先生にしか、僕の本当のことを言えないなんて。





なっち先生はずっと、僕の頭を撫でてくれていた。
僕の好きな女の子達は、目の前で楽しそうに遊んでいた。
新しく流行った遊びかなんかで、みんなも夢中みたいだ。

僕は、なっち先生の顔を見た。なっち先生も僕を見た。
「せんせい……」と僕は言った。
「………なに?」と先生は言った。

僕は、先生にキスしたかった。
そして、僕は目を閉じて唇を先生に突き出した。
そして、何秒か経って、僕のほっぺたに、何かが触れた。それは、なっち先生の唇だった。
僕の身体は、ぶるぶるっと震えた。僕は目を開けた。

そこには、笑顔のなっち先生が居た。
なっち先生の笑顔は、何かの始まりみたいに見えた。

「……みんな、こうちゃんのこと好きだよ。なっち先生も、こうちゃんのこと、大好きだよ!」
僕は、またなっち先生のエプロンを強く握って、泣いた。そして、また明日に、ここに来ようと思った。