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10
2003

モナムール東京

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せっかく日韓戦の為に早めにバイトから帰ってきたと言うのに僕の妻、愛(旧姓:高橋)
はいつまで経っても帰ってこなかった。今日、僕はずっと愛のことを考えていたのだ。
一緒にサッカーを観て、点が入ったら抱き合おうなどと思っていたのだ。それなのに、
それなのになんであいつは………!!!

僕は自身の飲んだビールの空き缶を片づけながら思った。怒りながら部屋の中を片づけ
ると言う小市民的行動が、自分を余計にみじめにしているようで腹が立った。おまけに
日本は引き分けで優勝を逃した。僕は、帰ってきた愛にどんな仕置きをしてやろうかと
鼻息を荒くし、エビスビールの缶を握り潰した。

しかし、愛は未だに帰ってこない。
もしや愛はあまりに勝手な俺の振る舞いに愛想を尽かして、もう二度と帰って来ない
つもりなのではあるまいか……?僕はゴミ箱の前で立ち止まった。その中には、自分が
昨日一昨日飲んだ、信じられない位のビールの缶がひしめいていた。

いや、あいつには俺の他に身寄りが無いはずだし……。
それに、そんなに俺は愛に冷たくしていたっけ?昔より優しくなくなっていたっけ……?


俺は今日、久々にピチカートの「モナムール東京」を聴きながらあいつのことを考えて
いたんだ。あいつは多くのことを言わないけど、でも、俺はあいつのことが分かってる
つもりだ。俺の手から離れたらあいつがボロボロになるのは分かっているから、だから
こうして今までやってきたんだ……。なのに、あいつは黙って俺の前から消えちまうっ
て言うのか……?


僕は泥酔して泣いていた。涙を流さずに、泣いていた。肉体労働で酷使した四肢は、
もう缶ビールを口に運ぶ役割しか果たさなかった。早く、流しの横の汚いドアを開けて
帰ってきてくれないか、愛………。

僕は、こたつから仰向けに倒れ、側に落ちていたコートを枕にして目を閉じた。
僕は、いつの間にか自分こそが「モナムール東京」の世界に浸っていることに気づいた。





やっぱりあなたは移り気な男の人なのね 

あんなに私のことだけを好きだと信じてた

あの夏の日あなたと あつい陽射しの中で くちづけしてその後

抱かれたのはただの遊びなの モナムール

ひとりぼっちであてもなく 街をさまようの

涙溢れて目の前がなんにも見えない


忘れられない人だから とても切ないの

恋の終わりが来ることはわかっていたけど

あの夏の日あなたは 星降る空の下で 甘い愛の言葉を私に囁いた

忘れない モナムール

ひとりぼっちであてもなく 街をさまようの

涙溢れて目の前がなんにも見えない


やっぱりあなたは移り気な 男の人なのね

あんなに素敵な思い出が ただ消えてゆくの

あの夏の日あなたの 腕の中で私は 甘い夢を見ながら震えて眠ったの

さようならモナムール


ひとりぼっちであてもなく 街をさまようの

涙溢れて目の前がなんにも見えない

モナムール東京



モナムール東京        (小西康陽)





はて、このアルバムが発売した時、俺は何歳だったっけ……?
思い出せない。

もしかすると、愛は地球の裏側にいて「私の人生、人生の夏」を歌っているのかも知れ
ない。その方が愛が幸せだったとしたら………いや、その方が幸せなんだろうな……。
愛……一緒に居れて、楽しかったよ。

僕は目の前に居る眠気と一緒に、彼女のことを許した。
頬に当たる空気だけが寒かった。アルコールの火照り。そして、もう一つの僕が求める
温度は多分、もう二度と戻ってこなかった。僕は彼女の温かい匂いを思い出していた。