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20
2003

パンの笛

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こんこんと日直だぁ……。

ヒューバート・ロウズの「ブランデンブルグ協奏曲第3番ト長調」……。

そんな青春を過ごした奴がこの世に居ると言うのか?
僕は紺の制服の隙間から伸び出た彼女の白い腕や脚、首筋に吸い込まれそうになる。
彼女の書く綺麗な文字が、日誌を気持ち良く整然と埋めていく。

「こんこん、フルートは好きかい?僕はとても好きなんだ。僕はたまたまこのヒュー
バート・ロウズのアルバムを買っただけで、彼の音楽について詳しい訳でも無いんだ
けど、CTIのアルバムはどのテーマを取っても洗練されているね。冒頭の「パヴァー
ヌ」を聴いて、なんだか前奏が「アランフェス協奏曲」にちょっと似ているな…と思
っていたら、偶然にスペインの作曲家だったよ。もちろん、ロドリーゴでは無かった
けどね。音楽について僕はまだ何も知らない」と、僕はこんこんに語りかけなかった。

なぜなら、僕はこの異次元にあるハロプロ学園に来るまで、ある妄想小説を書いてい
て、物語の中でこの、ヒューバート・ロウズの「春の祭典」を加護ちゃんに貸してい
たのだ。そして、加護ちゃんはとてもそのアルバムを気に入っていたのだ。だから、
僕はこんこんにそのことを話せなかった。

しかし、放課後の教室でこんこんと二人きりで居る時、僕は心の中でその音楽に耽り
続けていた。校庭では、Sろうさんがサッカー部のみんなとボールを蹴っているのが
見えた。傍らでは、みうなとあさみが青いメガホンを持って応援している。
ああ、みんな楽しそうだな………。





もう一つ話しかけられない訳は、僕がリリパット王国でなっちの吹くフルートが大好
きだったからだった。僕はあの音色を聴く度に荒んだ心を洗われたような気になった
ものだ。だから、要するに僕の中ではこんこんとフルートとバッハとヒューバート・
ロウズにはそれまで何の関係もなかったのだけど、だけど何故か僕は今、くたびれた
ソファーに対するように、その音楽に身を任せている。


僕は、僕の頭の中だけでその音楽を再生していた。
ドビュッシーの"Sylinx"に幾つも重なっていくフルート。僕はその複雑で印象的な響き
を再現することができた。そして、こんこんにもそれを聴かせたかった。しかし、こ
んこんは学級日誌に対する生真面目な姿勢を崩さなかった。少したりとも彼女は姿勢を
崩さず、彼女はペンを走らせていた。生真面目であると言うより、それはただの一つの
完全な風景のように見えた。そこには、その美しさには、ある種の完全性があった。

僕は、それ以上こんこんに近づきたいとも思わなかった。
僕はただ、時間が過ぎるのも忘れ、それを眺めていた。

リズミカルなシャープペンの動き。
まだページの厚い学級日誌に文字を書き込んでいく、小気味良い音が聞こえる。それ
はまるで、彼女が静かな教室で僕のためだけに奏でる音楽のように感じた。

僕が話しかければ、彼女はいつもの彼女に戻るだろう。
完璧な彼女は、今、僕の存在を意識して、覚えているだろうか?

ページの最初に僕と彼女の名前を刻んだ時から、随分時間は過ぎている。
僕は目を閉じ、彼女の音楽に耳を澄ました。

時間の感覚は限りなく薄れ、僕は意識の中で、なにかの境界線が薄れていくのを感じた。
僕は、どこに行こうとしているのだろう。



瞼の暗闇の先に、こんこんが白く浮かんだ。




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  • 2003.11.24 (Mon) 03:57 | 今日はなんだか