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17
2003

Small town talk

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僕らはいかだに乗って、釣りをしていた。
強い手ごたえがあり、僕はそれと闘っていた。しばらくして
手ごたえが軽くなり、引き上げると、針が無くなっていた。

僕はうつぶせになり、間近に海を眺めた。
波は静かで、海は暗く、その先には当然何も見えなかった。
僕はなんだか急に怖くなってきた。この下には凶悪なダイオウ
イカが生息し、僕らを暗黒の中に引きずり込もうと画策してい
るのかも知れない。仲間の二人を見ても、そんなことには気づ
いていないようだった。僕は、怯えているのを悟られないよう
に、二人に「そろそろ陸に上がろう」と言った。

陸に上がると、トンネルが見えた。
僕には海水がそのトンネルに向かって流れているように見えた。
そのトンネルをまたぎ、僕らは歩いた。しばらくすると、急に
太陽が僕らを照りつけ、すっかり辺りは明るくなった。
しばらく先に、建物が見えた。

建物の横の広い、砂利の駐車場には現地人らしい、日に焼けた
真っ黒な男が居た。男はなにやら僕らに怒った様子で話しかけ
てきた。何を言っているのか良く分からなかったが、「町に落
書きをして回っているのはお前らだろう。そんなことをしてい
ると警察に突き出すぞ」と言うようなことだった。ちょっと頭
がおかしい様子にも見えたので、僕らは適当に受け流してその
場を離れた。

建物は、ファミレスだった。
こんな辺境の地にしては、とても綺麗な、感じの良い店だった。
僕は窓際の席にあっちを見つけた。僕は興奮して二人に「あっち
だ、あっちだ!」と言った。そして、すぐ様店に入った。
すると、入り口近くの席に、なんと圭ちゃんが座っていた。
僕はあっちのことを忘れ、すぐに圭ちゃんの横に近づいた。

「どうも、初めまして。け、圭ちゃんですよね……」
圭ちゃんは「犬がね、******なの」と言った。僕は、それが何なの
か聴き取れなかったのだが、圭ちゃんはとても楽しそうに話して
いたので、きっと飼い犬のことを話しているのだろうと思った。
そうやって僕らはいくつかの言葉を交わしたのだが、全て圭ちゃ
んの言葉は良く聴き取れなかった。しかし、圭ちゃんは急に話し
かけた僕のことも悪く思ってはいない様子だったし、本当に楽し
そうに話してくれた。至福の時間だった。

僕はそして、圭ちゃんの前に若い男が座っているのに初めて気づいた。
眼鏡をかけた、今風の洒落た格好をした色白の青年だった。僕は、
この男が圭ちゃんと一体どういう関係なのだろうと思った。心の中に
一瞬暴力的衝動がちらっと姿を見せたが、その場の幸せな空気の中で
、その衝動はすぐに溶け、消え去った。
「どうも、初めまして。うたかと申します」
僕は特製の加護ちゃんのキショい名刺を胸元から取り出そうとした。
このキショさに、彼らはもっと笑ってくれるに違いない。そして、僕は
圭ちゃんともっとずっと一緒にいることができるかも知れない……。

圭ちゃん………。



電話が鳴った。
不吉なヴァイヴの低音が胸に響いた。僕は現実に引き戻された。

電話が終わり、僕は泣きそうになった。圭ちゃんとはもう会えない。
あの空気はもう戻ってこない。ハワイには圭ちゃんは居ないのだ。

あの海沿いの辺ぴな町のファミレスは、一体どこにあるのだろう。
今でも圭ちゃんは楽しそうに犬の話をしているのだろうか……。

僕は哀しくなって、ボビー・チャールズの"Small town talk"を聴いた。
そして、海の匂いと、圭ちゃんの笑顔と声を思い出した。