16歳
一人で喋るちなこって初めて見るからかも知れないけど、すごく大人になってた。
それと同時に、あんなにガチガチになってるちなこを初めて見た。
憂いや不安を帯びた視線を会場全体に向けて「桃色片想い」「蝉」「初ハピバスデイ」を。
髪を伸ばした大人っぽい格好のちなこが、それらの曲をものすごく真面目に歌っていて。
思い出すとなんだかあまり現実感がない。
ちなこはジンギスカンイベや、サンシャインのイベで見たばかりなのに、どうしてもその
イメージと重ならない。仲間がいなかったから緊張していて、いつもの対全人類無条件
ニコニコ的な笑顔を見られなかったからだろうか。
たぶん、全てのキッズパシイベで、このような神秘的体験が繰り広げられているのだろう。
全てを見てみたいけど、全てを見たら僕は今以上に混乱するに違いない。
ちなこが独りで歌う「蝉」を聞きながら、僕は名古屋の初単独コンサートのことを思い出し
ていた。あの頃僕が思い描いていた夢がどんなものだったのかも、もう思い出せない。
夢がまた一つ終わり、結論の出ぬまま日常は続く。