駄目になった人間
確かに僕は駄目になったのかも知れないな。
仕事が終わると目がしょぼしょぼして、字もかすんで見えて、何をする気にもなりゃしない。
身体を動かさないからか、酒を飲みたいとも思わなくなった。仕事をして、終わって、ただ
ぼーっとして一日が終わる。自分は何がしたいんだろう、と買い物中にふと考える。
次の瞬間には何をしたいかという設問はすっかり忘れて舞美さんのことを考えている。
舞美さん、と思う。舞美さん、舞美さん、と思う。たまに声に出して言ってしまうこともある。
昔、子供の頃独り言を言っている変な大人がいたなあ、と思う。あれはもしかすると未来
の僕だったのかもしれない。今の僕には君の気持ちがよくわかるよ。舞美さん、舞美さん。
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舞美さんと友達だったらと思う。
もし本当に今ここに舞美さんがいたら、と本気で想像してみる。いつも、あまりそんなに
いいものではないような気がして考えることをやめる。いくつもの宇宙と偶然を超えて
舞美さんと知り合ったとして、僕はきっと緊張して何も喋れなくて、喋ったとしても余計な
ことばかり言って今よりもっとつらい気持ちになるに決まっている。だから、これでいいん
だ。このままでいいんだ。…でも、いつまでも同じことで繰り返し悩んでしまう。
そんなことをいつまでもいつまでも繰り返す内、それはそれとしてひとくくりの問題として
囲んでしまうことを覚えた。ひとくくりにしてまとめて、意識の片隅にほっぽってしまう。
またそれが気になってきたら場所を変えてほっぽっておく。僕は心の平穏を手に入れる。
心の平穏と引き替えに、僕はかつて抱いていた希望や夢や妄想を失った。
そうあるべきだと思っていた世界や、未来とか、そんなものを。そんなに大したものでは
ないけど、今ではそれは遠い世界のお伽話のように思える。
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僕は僕の病気として、ずっとキッズのことを好きなままでいると思う。
だけど、いつまでも「昔と同じまま」好きではいられない。どうしてなのかはうまく説明
できないけど、とにかくそう感じる。
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イベントに行って、踊って、握手をして、話して、笑わせて、CDをプレゼントして。
そんな小さな、普通の人が見ればくだらないことの繰り返しが生活の全てになってしま
った。でも僕はそれを悲しいことだとは思っていなくて、なんだかとても楽しくて充実して
いるんだ。舞美さんはそっけないとか、雅ちゃんが機嫌が良かったとか、そういう書いた
ら何でもないようなことがとても嬉しくて、どうしようもなく単調で無感動な毎日の唯一の
潤いになっている。
駄目人間も新しい小さな希望を持ちつつある。
笑われたり、軽蔑されても構わない。誰に理解されなくても構わない。
日曜にはキッズコンサートが待っている。