寒い寒い寒い
夜、食料を買出しに仕方なく外に出る。
寒い寒い寒い…と口の中で呟きながらいつもの道をとぼとぼ。
寒い寒い寒い…
寒い寒い寒い…
舞美さんと結婚したい舞美さんと結婚したい舞美さんと結婚
したい…
といつの間にか反復する内容が変わったのに気づき、心まで
寒くなる。ちょうど「矢島」という表札がかかった家の前を
通りかかる。もし自分が舞美さんの近くに生まれていたとし
ても、自分はこうやって舞美さんの家の前を通りすがること
しかできず終わるような気がする…。舞美さんほどの美人な
ら街の話題にならぬ筈は無いし、誰々とつきあってるとか噂
を聞いたりして、その日は泣きながら酩酊したりするんだろ
うな…。でも街で偶然会った時には、あの素敵な笑顔で、誰
にも分け隔てなく、俺なんかにも挨拶してくれるんだろう
な…。
今まで随分数多く振られてきたから、舞美さんがどういう風
に俺を振るのかも想像つくなぁ…(泣)。傷つかないような優
しい心づかい。告白した以上、友達としてつきあうなんて器
用なことは俺にはできないんだよ、舞美さん……。
そして嫉妬と敗北感と自信喪失の日々を送るんだろうなぁ…。
今見ている殺風景な街も、舞美さんが隣にいたらどんなに輝い
て見えるだろう…でも俺は舞美さんに振られたんだ……それは
もう一生叶わない……でも、世の中には舞美さんと同じ風景を
見て、同じものを食べて、同じ布団で寝て、一緒に死んでいく
男というものが存在するんだ……ああぁ……もう死のうかな…
こんなにこんなにこんなにこんなに舞美さんが好きだったって
遺書でも書いて…って、舞美さんの重苦になるようなことして
どうするんだ……でも、舞美さんに全ての気持ちを伝えた
い…。あんな二言三言で何も伝えられた気はしない…。でも、
きっともうチャンスは二度と無い…。もし自分が女でも、何
とも思ってない人に言い寄られたら、それから警戒するよう
になるよ。つまり、俺は舞美さんと友達でいる可能性も自分
から潰してしまった訳で……とは言いながらも、自分の気持
ちが抑えられなかったんだからしょうがないよな……。
などと延々妄想に耽っている内に夜が明けた。
肝臓が重い。
