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25
2001

Sonny boy

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「は・・早くこれを履けよッッ!!」
「・・ッッ・・さっきからいやだって言ってるでしょ!」

男はホットパンツを手に、女に迫っていた。男の名はうたか。女の名は偽市井と言う。
偽市井は半裸だった。服はうたかに破られたようだった。「ほらッッ!!水色パーカー!!
もちろん真ん中には僕が作ったプチモちゃんのアップリケだよぉ~ウッヒョォオ~~」
うたかの目は明らかに常軌というものを逸していた。偽市井は思った。

この人は日記で自分を作ってなんかいない。本当に狂っている。



「偽市井さん、僕と一緒にお酒を飲んでくれませんか?」

「・・偽市井さんは僕の話を黙って聞いてくれさえすればいいんです。いや、聞き流して
いたって別に構わない。僕はただ、偽市井さんの目の前で話がしたいだけなんです」

「簡単に考えてください。僕の単なるストレス解消だと。僕はあなたに酒を奢り、心の鬱憤
を解消する。あなたは僕の話を聞きたくなければ、流れているレコードに耳を傾ければいい
し、昔のことを思い出すのもいいかも知れない。別に悪い話じゃあないと思いませんか?」

「・・・じゃあ、明日その店で待ってるから」



店の名前は「vem balancer」と言った。
私はそれを何と読むのか分からないまま店に入った。薄暗い店内に入ると、凡庸なボサノヴァ
・タッチのピアノが微かに聞こえた。どこかで聴いたようなメロディーだったが、
私はどうしてもその曲名を思い出せなかった。「・・やあ」

うたかはカウンターに座っていた。

いつも通りぼさぼさの髪、汚い古着のスウェットにジーンズのだらしない格好、いやらしい
微笑み。私は、いつもうたかを見る度そういうことにうんざりした。
でも今日は、あまりにうんざりしすぎてそれに慣れてしまっている自分がいた。そんな自分
に、私は驚きはしなかった。私は驚くにはいささか疲れすぎていた。最近、家に帰ってシャ
ワーを浴びて寝る、それだけの日々がずっと続いているのだ。

うたかはビールを注文し、私もビールを注文した。
うたかと同じ飲み物を飲むのは嫌だったのだが、とにかく私は疲れていたのだ。
なぜ、そんなに疲れていたのに私がうたかとの約束を律儀に守ったのか良く分からない。
疲れていたこそ間違った選択をしてしまったのかも知れない。類は、私の身体がただ
アルコールを求めていたからなのかも知れない。

ただ一つ確かなのは、その選択が間違っていたということだ。



「偽市井さん、この世で一番寂しいことってなんだかわかりますか?」うたかは言った。
私は、わからない、と答えた。そんなものわかるわけがない。

「偽市井さん、この世で一番寂しいことはね。24時間テレビでモーニング娘。と握手しに
出かけて、朝7時から夕方6時まで並んで、3回チャンスが巡って来て、その3回とも
ゆうたろうと握手すること
ですよ。3回とも物まね軍団と握手することです。まあ、内
一回が安達由美だったのは人によっては救いなのかも知れませんがね・・・・・しかし。
それは僕には救いにはならなかった。僕は、加護ちゃんと握手したかったんだ!
加護ちゃんと!
」うたかはどしん、と机を叩いた。何人かの客が、こちらを振り返った。


「・・・・すいません。偽市井さん。こんなことをするつもりはなかったんです。
僕はただ、加護ちゃんと握手をしたかっただけなんです」
私は、気持ちは分かる、とだけ答えた。本当はそんなもの分からないし、分かりたくもない
のだけど。・・・私はどうしてここにいるんだろう・・・・。
私は全身の毛細血管にアルコールがゆっくりと流れ込んでいく感覚を、より子細に、
より詳細に感じようとしていた。
「偽市井さん、僕がなんで握手にこんなにこだわるかというとね。それはあなたのせいでも
あるんですよ」私はその言葉で一瞬、普段の意識を取り戻した。「なんで、私が?」

うたかは、ビールの最後の一口を飲み干した。そして唇を一度、舐めた。
「偽市井さん、あれは・・・確か・・・3年前のこと・・・・」