俺と明日菜の恋物語 第二章

それは℃-uteの初めてのコンサートの夜のことでした。
私はお姉ちゃんの初めてのライブにとっても感動しました。いつか私も
あんな風に歌いたいな、と思いました。のどがかわいたので、お母さん
から1000円をもらって、弟と自動はんばいきへいきました。
自動はんばいきの前には、変な男の人が立っていました。
頭がぼうずなのに、へんなかたちに毛がはえています。おまけに、男の
人のおでこにはなにか文字がうすく書いてありました。私は弟を守らな
くちゃ、と思いました。「あすなちゃん?」
変な男の人が声をかけてきました。私は、あちゃー、と思いました。
でも、とりあえず知らないふりをしてみました。でもまた男の人が名前
を聞いてきたので私は「はい」と言いました。男の人は「握手してくだ
さい!」と言いました。私はなんだかこわくてだまっていました。早く
ジュースを買って、お母さんのところへ帰ろうと思いました。でも、千
円がなかなか自動はんばいきに入りません。「僕の千円なら×☆○~~
!」男の人がなにか言ってきました。どうやら、私たちにジュースを買
ってくれると言っているみたいです。私は、お母さんから知らない人か
らものをもらってはいけないと言われたので「いいです」と言いました。
でも、男の人はおおあわてでおさいふを開けて、その中から500円を出し
て、自動はんばいきに入れて「すきなものをどうぞ」と言いました。男の
人はひっしにえがおを作ろうとしているみたいでしたが、ものすごく顔が
引きつっていました。でも、もともとジュースは自動はんばいきに入って
いたものだからこの男の人がどくを入れようとしてもできないと思いまし
た。私は「ありがとうございます」とおれいを言いました。弟も「ありが
とうございます」とおれいを言いました。男の人はニコニコしていました。
そして、「握手してください!」とまた言いました。
まだちょっとこわかったけど、私は手を出しました。
男の人は「おうえんしてます!」というと、スキップしながらどこかに行
ってしまいました。へんな人だけど、悪い人ではないのかも知れません。
□
車の中で、私はお姉ちゃんとお話しました。
「今日ね、へんな頭の人にジュース買ってもらったの。℃-uteのファンの
人ってあんな人ばっかりなの?」そしたら、お姉ちゃんはびっくりした顔
で言いました。「その人、知ってる!頭に℃って書いてる人じゃない?い
っつもイベントとかに来てる!…あっ、でもへんな頭だけど、悪い人じゃ
ないよ」私は、お姉ちゃんが話すのを見ていて、ほんとうにただちょっと
おかしなだけで、悪い人じゃなかったのかも、と思いました。「…でもさ
ー、あの人、うたかって言うらしいけど、前は「ちさと」って書いたぼう
しかぶってたのに、今日は…」「きょうは?」
「…おでこにまいみ、うたかって書いてた」
お姉ちゃんはなんだか怒ったような顔をしました。お姉ちゃんはそのまま
しばらく窓の外を見ていました。これは、しっとというやつなのかな、と
私は思いました。あんなおかしな人にしっとするなんて、私にはちょっと
信じられませんでした。
お姉ちゃんがだまっている間、私はお父さんがかけた曲を聞いていました。
それは、きょう℃-uteのコンサートで聞いたタンポポさんの曲ににていま
した。私がそう言うと、お父さんは「これはゲイリー・グリッターのロッ
クンロールっていう曲だよ」と教えてくれました。でも、タンポポさんの
曲みたいにかわいくなくて、なんだかとてもバカな曲みたいなかんじがし
ました。そのあとはお姉ちゃんたちの曲「YES!しあわせ」がかかりました。
□
お姉ちゃんはつかれて、いつのまにかねむってしまったようでした。私も
なんだかねむくなって、目を閉じました。私は曲を聞きながら「しあわせ」
と、なんとなく心の中で思いました。きょうのライブのことを思い出しま
した。
今のお姉ちゃん達は、今までで一番キラキラしているような気がしました。
…あの変な男の人もしあわせだったのかも。