Berryz家庭教師…。
そんなものはこの世には存在しないだろう。
いや、しないと言ったところできっと僕の妄想は止まらないのだ…。
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「千奈美ちゃん、次は86ページを開いて」
「はい、うたか先生…」
ああ、ああ……、真っ黒なちなこ……。ちなこの長い腕を、乾いた肌を
ポロシャツ越しに感じる…。「千奈美ちゃん、連立方程式って言うのはね…」
ここで僕は重要なことに気づく。自分が大学をドロップアウトした男で
あることに。しかも、高校の時に数学0点を取り続け、ダブリ寸前まで
追いつめられた男であることに。映画「クローバーズ」の算数の問題で
一つも答えが分からなかったことに(串刺し、死亡)。ああ、きっと僕の
知能は退化し続けていて、最早キッズ以下なんだろう……。
だけど、いいんだ。今から現代文を教えることに決めたから…(そんな
家庭教師などいないと言う声は封殺)。「千奈美ちゃん、どうしてこの
作者はアルコール中毒に陥ってしまったんだと思う…?」いや、そんな
こと聞いてどうするんだこのバカ、もっとまともな話にしないか!
ああ、音楽(リスニング専門)の家庭教師もいいなぁ…。
「千奈美ちゃん、この"O Mapa"っていう曲はアルチュール・ヴェロカイ
って言う人が作った曲でね…」「アハハハ、変な名前ですね」そう言って
笑うちなこ…。ギターとか弾けちゃったらその場で弾いちゃったりしてね
…。さらに車とか運転できたら、ちなことお友達のBerryz達で海行っ
ちゃったりしてね…。後部座席でトランプとかしてるのをミラーで見て、
ああ、僕も仲間に入れて…!とか思うんだけど、運転はとにかく集中し
てね。あっ、というか助手席は誰が座ってるんだ……?地図をちゃんと
読めるしみハム……?名ナビゲーター?「あ、先生次の交差点を右です」
的確なアドバイス。弾む会話。それをちなこはちょっと頬を膨らませて…。
(しみちゃん、先生は私のものなんだからね!)
□
海に到着して、みんなは海の家に着替えに…。
煙草を吸わない僕は、手持ちぶさたにペットボトルのフタを何度も開けた
り閉めたり…。ダン・ヒックスの"Strike It While It's Hot"を後ろに聴き
ながら、ビーチ・パラソルやらシートやらを用意して…。
嬌声を上げて海に走るあの子達の姿を僕は正視することはできない。
正視したら目がつぶれてしまうだろう。海と太陽と……。でも、こんな天国
みたいなところなら、自分も小学生に戻ってもいっか!とか勝手に思っちゃ
ったり。「わー、先生お腹出てるー」とか言われたりしながら、水かけあったり。
お腹叩かれちゃったり。わー、エンドレスサマー…。太陽ビカーーッッ……。
で、最後にみんなで鼻すすりながら正油ラーメンを食べたい。
「みんな、焼けたねぇ……」
一番焼けてるでしょ、と言いたそうなちなこ。ああ、この幸せがずっと続きますように……。