風邪とBAD
いつもと似た混乱が来て去っていった。
そして、ものごとに対して妙に無感動になっている自分に気づく。
目がかすんで、うまく本が読めない。
風邪気味で体調も悪く、汗が異常に吹き出して止まらない。
寝て起きると布団がぐっしょりになっていて、気持ちが悪い。
かと言って、薄着をすると、今度は寒くなってくる。
それでも本を今日中に読んでおきたくて、ページを読み進める。
本はやはり僕の胸を打った。しかし、風邪薬と風邪の影響なのか、その
物語を自分自身に置き換える時、どうしても色々なことが分からなくな
ってしまった。だから、僕はただ泣いた。
僕は娘。達の顔を思い出さなかった。
チャットを見ていると、K君を始め、みんなが新曲のPVを絶賛していた。
しかし、なぜか僕はそれを見る気にはならなかった。感動と無感動が交互
にやって来て、僕はかすんだ目でそれを見ていた。着込めば汗をかくし、
着込まなければ、薄ら寒い。でもやはり僕は麻痺しているのか、不安を
感じることは無かった。正確に言うと、分を感じるだけの体力が今は無い
のかも知れない。
こんこんヲタの中学生から携帯メールが入っていた。
僕は、それにも無感動に返事を返した。僕は、なんだか急速に色んな物事
に対しての興味を失っていた。音楽も、何を聴いたら良いのか良く分から
ない。ただ、麻痺した頭でも、読んだ本の重みと悲しみをうっすらと思い
出すことはできた。そして、麻痺以外の原因のことを僕は考える。
麻痺以外の原因。
僕にはそれを上手く説明することが出来ない。出来たとしても、それは
自分を救う行為にはならないだろう。ただ、それはまた自分を孤独にする
ものごとだった。僕にはそれが良く分かっていたのだ。しかし、僕は分か
っていたのに自分からそこに足を踏み入れてしまったのだ。
ある種の絶望が身体の中でどんどん大きくなって、それを分かち合うよう
な存在は、場は完全に限定されたかたちとなった。
そこが僕の今の居場所で、僕は多分、しばらくそこから出ない方が良さそうだ。
いつからか、現実と自分の意識の落差に愕然としてしまうことが多くなった。
僕は、いつも多かれ少なかれショックを受けた。そして、そのショックをアル
コールで和らげた。幸福感だけを残し、全ての不安や怒りや悲しみや違和感は、
翌日の頭痛と吐き気の中だけにしまい込んでしまった。
しかし、いつからか、そういう方法は通用しなくなってしまった。
僕は、ことあるごとに違和感を感じるようになった。自分の身体をなんとかそこ
に中和させようと努力してみるのだけど、どうしても上手く行かない。僕は、
なんだかとても薄ら寒い気分になった。時々僕は、なんだか自分が間違っている
ような気分になった。
みんなはこんなに楽しそうなのに、どうして俺はこんな小さいことに、訳の分か
らないことで悩んでいるんだろう。
僕はその会場を抜け出して、バド・パウエルをヘッドフォンで聴きながら歩いた。
加護ちゃんのことを考えたが、加護ちゃんはどこにも居なかった。周りに居るのは
みんな都会の見知らぬ人達だった。着飾ってはいるけれど、無機質で冷たい顔をして、
僕はそんな人間とは口も聞きたくなかった。そして、ショーウィンドウに反射した
僕の姿は、みすぼらしかった。僕一人だけがその風景から浮かび上がり、疎外され、
行き先を失っていた。バド・パウエルのピアノは、宿命的に悲しかった。
加護ちゃんのことを思い浮かべても、加護ちゃんが僕に対して語りかける事はなかった。
ある種の想いを信じ続けることは、ある場合には酷く困難になる。僕の根っ子はそれ程
太いものではないし、年を取るごとに不安は膨らみ続けているのだ。僕は、温かい言葉
を求めたが、聞こえるのはバド・パウエルのピアノだけだった。
時間が経てば、気は楽になる。
だけど、僕が根本的に抱えている問題は何一つ解決していない。
そもそも、根本の問題が何であったのかも僕には思い出せなくなりつつある。
僕は一体何がしたかったのか。
僕は求め、何を手に入れ、何を失ったのか。そして、最終的に何が残ったのか。
僕がいつまで経っても心の底で感じ続けている疎外感は何なのか。
無感動が一瞬反転して、悲しみがやって来る。
それには麻痺のフィルターが薄くかかっているが、ぼんやりと僕は考える。
もしかすると、もう僕は二度と昔のようには感動できないのかも知れない。すると、
僕は誰に何を求めれば良いのだろう。そもそも、僕が求めていたものは何だったのだろう。
…今は麻痺しているから、こんなことを考えてしまうのかも知れない。僕はさっき
から娘。にしがみつこうとしているのだけど、娘。達は僕の指の間をするりと通り
抜けていく。何回も、何回も通り抜けていく。
「自分のことを何にも知らない女の子を愛し続けて、何になるんだ?」
そんな、分かり切っていた言葉が妙な響きを持って僕の頭の部屋で響く。
僕は何でこんなことを書いているんだろう。良く分からない。
感じていた不吉な予感は霧のようにかたちをとって、僕の前に姿を現す。
僕が今まで娘。に対して積み重ねてきた妄想は、一体今どこにあるんだろう?
そして、記憶の部屋と言うものがあるなら、それはどうやって区切られ、どうやって
整理されるのだろう。その記憶はどのような時に持ち出され、どこにしまわれるのだろう?
いや、問題は、このような無感動の底に居る時、僕は誰に何を求めればいいのかと
言うことなんだ。とりあえずは、眠れば良いだろう。とりあえず、は。
でも、またこのような感覚が僕に訪れた時、僕はどうすれば良いのだろう。
それに麻痺した頭脳なりに、この問題は本当の、根本的なもののように思える。
こんな奇妙な感覚は初めてのことだ。
寝て起きた後、僕はどうなっているだろう。
そして、ものごとに対して妙に無感動になっている自分に気づく。
目がかすんで、うまく本が読めない。
風邪気味で体調も悪く、汗が異常に吹き出して止まらない。
寝て起きると布団がぐっしょりになっていて、気持ちが悪い。
かと言って、薄着をすると、今度は寒くなってくる。
それでも本を今日中に読んでおきたくて、ページを読み進める。
本はやはり僕の胸を打った。しかし、風邪薬と風邪の影響なのか、その
物語を自分自身に置き換える時、どうしても色々なことが分からなくな
ってしまった。だから、僕はただ泣いた。
僕は娘。達の顔を思い出さなかった。
チャットを見ていると、K君を始め、みんなが新曲のPVを絶賛していた。
しかし、なぜか僕はそれを見る気にはならなかった。感動と無感動が交互
にやって来て、僕はかすんだ目でそれを見ていた。着込めば汗をかくし、
着込まなければ、薄ら寒い。でもやはり僕は麻痺しているのか、不安を
感じることは無かった。正確に言うと、分を感じるだけの体力が今は無い
のかも知れない。
こんこんヲタの中学生から携帯メールが入っていた。
僕は、それにも無感動に返事を返した。僕は、なんだか急速に色んな物事
に対しての興味を失っていた。音楽も、何を聴いたら良いのか良く分から
ない。ただ、麻痺した頭でも、読んだ本の重みと悲しみをうっすらと思い
出すことはできた。そして、麻痺以外の原因のことを僕は考える。
麻痺以外の原因。
僕にはそれを上手く説明することが出来ない。出来たとしても、それは
自分を救う行為にはならないだろう。ただ、それはまた自分を孤独にする
ものごとだった。僕にはそれが良く分かっていたのだ。しかし、僕は分か
っていたのに自分からそこに足を踏み入れてしまったのだ。
ある種の絶望が身体の中でどんどん大きくなって、それを分かち合うよう
な存在は、場は完全に限定されたかたちとなった。
そこが僕の今の居場所で、僕は多分、しばらくそこから出ない方が良さそうだ。
いつからか、現実と自分の意識の落差に愕然としてしまうことが多くなった。
僕は、いつも多かれ少なかれショックを受けた。そして、そのショックをアル
コールで和らげた。幸福感だけを残し、全ての不安や怒りや悲しみや違和感は、
翌日の頭痛と吐き気の中だけにしまい込んでしまった。
しかし、いつからか、そういう方法は通用しなくなってしまった。
僕は、ことあるごとに違和感を感じるようになった。自分の身体をなんとかそこ
に中和させようと努力してみるのだけど、どうしても上手く行かない。僕は、
なんだかとても薄ら寒い気分になった。時々僕は、なんだか自分が間違っている
ような気分になった。
みんなはこんなに楽しそうなのに、どうして俺はこんな小さいことに、訳の分か
らないことで悩んでいるんだろう。
僕はその会場を抜け出して、バド・パウエルをヘッドフォンで聴きながら歩いた。
加護ちゃんのことを考えたが、加護ちゃんはどこにも居なかった。周りに居るのは
みんな都会の見知らぬ人達だった。着飾ってはいるけれど、無機質で冷たい顔をして、
僕はそんな人間とは口も聞きたくなかった。そして、ショーウィンドウに反射した
僕の姿は、みすぼらしかった。僕一人だけがその風景から浮かび上がり、疎外され、
行き先を失っていた。バド・パウエルのピアノは、宿命的に悲しかった。
加護ちゃんのことを思い浮かべても、加護ちゃんが僕に対して語りかける事はなかった。
ある種の想いを信じ続けることは、ある場合には酷く困難になる。僕の根っ子はそれ程
太いものではないし、年を取るごとに不安は膨らみ続けているのだ。僕は、温かい言葉
を求めたが、聞こえるのはバド・パウエルのピアノだけだった。
時間が経てば、気は楽になる。
だけど、僕が根本的に抱えている問題は何一つ解決していない。
そもそも、根本の問題が何であったのかも僕には思い出せなくなりつつある。
僕は一体何がしたかったのか。
僕は求め、何を手に入れ、何を失ったのか。そして、最終的に何が残ったのか。
僕がいつまで経っても心の底で感じ続けている疎外感は何なのか。
無感動が一瞬反転して、悲しみがやって来る。
それには麻痺のフィルターが薄くかかっているが、ぼんやりと僕は考える。
もしかすると、もう僕は二度と昔のようには感動できないのかも知れない。すると、
僕は誰に何を求めれば良いのだろう。そもそも、僕が求めていたものは何だったのだろう。
…今は麻痺しているから、こんなことを考えてしまうのかも知れない。僕はさっき
から娘。にしがみつこうとしているのだけど、娘。達は僕の指の間をするりと通り
抜けていく。何回も、何回も通り抜けていく。
「自分のことを何にも知らない女の子を愛し続けて、何になるんだ?」
そんな、分かり切っていた言葉が妙な響きを持って僕の頭の部屋で響く。
僕は何でこんなことを書いているんだろう。良く分からない。
感じていた不吉な予感は霧のようにかたちをとって、僕の前に姿を現す。
僕が今まで娘。に対して積み重ねてきた妄想は、一体今どこにあるんだろう?
そして、記憶の部屋と言うものがあるなら、それはどうやって区切られ、どうやって
整理されるのだろう。その記憶はどのような時に持ち出され、どこにしまわれるのだろう?
いや、問題は、このような無感動の底に居る時、僕は誰に何を求めればいいのかと
言うことなんだ。とりあえずは、眠れば良いだろう。とりあえず、は。
でも、またこのような感覚が僕に訪れた時、僕はどうすれば良いのだろう。
それに麻痺した頭脳なりに、この問題は本当の、根本的なもののように思える。
こんな奇妙な感覚は初めてのことだ。
寝て起きた後、僕はどうなっているだろう。