沈み込む感覚
沈み込む感覚。
肩の上に何か「重し」が乗っているような、そんな感覚。
僕は大きくため息をついて、水面に浮かび上がろうとするが、
大きな手がまた僕の肩を掴む。息苦しさだけが増して行く。
しかし、僕は溺れ死ぬことは無い。その苦しさだけが続いていくのだ。
そんな酷い状態と、ほっとする瞬間と。
相変わらず波が激しすぎる。
人を求める気持ちと、人を恐れる気持ちと。
きっかけがなんなのかとか、そういうことはもう思い出せない。
ただ引き金がそこにあっただけで、僕は多分いつかここに来ること
になっていたのだろう。いや、僕はもう昔から何度もここと似たよ
うな場所に来ていた。何度も、何度も。
しかし、その度、僕はいつしかまた現実に戻っていった。
こういうのには、いつまで経っても慣れない。
例えば目の前に50mプールがあって、それを何度も泳いだ人なら、
どの地点が一番苦しく、どの地点を乗り切ればゴールに辿り着ける
と言うのが身体で分かってくる(と、する。あまり泳ぎは得意じゃないから)。
でも、こういうような状態に陥ると、その苦しさがどこまで続くのかが
全く分からない。永遠に続く訳は無いと分かっているけど、終わったと
して、またいつか同じような苦しみを味わうのかと思うと、本当に絶望する。
そこでは全ての理屈はその効果を失い、たった一つの想念へ全ての思考
は走り始める。「俺はもう駄目だ」
駄目だ、と言う思考を何百回、何千回も繰り返した先には当然「死」しか無い。
実際に死ぬ訳ではなく、思考が全て「死」「無」へと向かい始める。
その瞬間、自分が初めて楽になれるような気がするからだ。
全てのコンプレックスや苦痛や責任から解放される(だろう)場所。
□
目が覚めると、また違う波が僕を取り囲んでいる。
僕は加護ちゃんを求める。
僕は加護ちゃんの何が好きなんだろう…。
僕は最後には、加護ちゃんの性が好きなのかも知れない。
僕が加護ちゃんに感じる狂気と言うのは、僕の性が求める彼女の性なのかも知れない。
そして僕は、僕の性は、彼女の性とは全く相容れないものだと感じているのだ。
それは、悲しいことだ。とても悲しいことだ。
そして、僕は、自分を慰める。
僕はどうしてもそれを上手く想像することができない。
僕は僕ではない。僕は誰かのかたちを借りている。
夢の中で夢を見ているみたいに、もやがかかっている。
僕は加護ちゃんのことを知りたいのに、知ることが出来ない。
加護ちゃんが見ているのは僕であって、僕では無い。
そして、僕が見ているのは加護ちゃんであって、加護ちゃんでは無い。
奇妙な感覚の渦の中で、僕は崩れ落ちる。
助け起こしてくれる人は居ない。それを確認して、僕は意識を失う。