It doesn't matter anymore
こないだミュージカルで5万振り込んだばっかりだっつうのに、
どうやって21日までに36500円用意しろってんだ?
はぁ~また借金か…。また借金するしか無いのか…。
もう借金に借金を重ねる生活は疲れた。
やっぱり日雇い労働の身に付いた身体には現金払いが一番だよ…。
最近は日雇いをしつつ、違うバイトもしつつ、もう一つまた違う
仕事をしつつ…という生活パターンが続いている。結構忙しい。
忙しいと言うよりかかは、不規則と言うべきか…。そして、金は
いっこうに貯まらない(現在所持金5000円、借金が17~18万円)
これじゃあ大阪(爆音)に行っても何もできない…。
給料日は25日。大阪は19日…。そして、コンサートの振り込み
期限は21日。そんな金は無いぞ。どうしよう。
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「あ、ネットランナーですけど。あんたのページ紹介したんだけど、
掲載紙いる?いるならメールしろや。送っからよ、じゃあな!」
というメールが来たので、一応住所を書いて返信しておいた。
今日届いた冊子を見ると、単に「はてなアンテナランキング」の
コーナーの22位に「今日はなんだか」と小さく紹介されているだけ
だった。何だよこれだけかよ!…って言うか、こんなにアクセスある
とは思ってなかった。転送URL使い出してから、アクセス解析使えな
くなっちゃったもんで、全然アクセス数とか分からなかったんですけ
ど、そんなに沢山の人が読んでくれてたとは…。どうも有り難うございます!
…等と言っても別に普段より面白いことが書ける訳でもなく、いつも
のように、くだらない妄想をぶちまけるだけの日記な訳だが…。
□
夜中に酒を買いに外に出ると、妙に昔の感覚が甦る。
3年前、4年前の感覚が甦る。恋人が居た時のような感覚になる。
何故なのかは分からないけど、あまり寂しくもない。
家に帰ったら恋人が居るような。そのまま酒を飲んで、いい気持ちに
なるような。何故か、そんな予感的な妄想が湧いてくる。もちろん、
そんなことがある訳無いのは分かっているけど、何故か幸せな気分に
なったりする。
□
真里のアパートの階段。
音を立てないように昇り、そっとインターフォンを押す。
かちゃり、とドアが狭く、開く。
僕はビールの缶をぶつけないように部屋に滑り込む。
真里が静かに鍵を閉め、僕は緊張から解放される。
この間のどんちゃん騒ぎで苦情が来たばっかりだったのだ。
「…風呂入ってたの?」「うん」
真里はタオルを首にかけ、髪を押さえて乾かしている。
パジャマ姿の真里を後目に、僕は冷蔵庫内にビールを整理し始める。
真里は、コンポの電源を入れる。CDを読み込む音が聞こえる。
一秒後、聴こえてきたのはジーン・ケリーの「雨に唄えば」だった。
「図書館?」「うん」
僕はそれを聴いて、やっぱり「時計仕掛けのオレンジ」を思い出した。
そういえば真里とあの映画を観た時はあったっけ…。
いや、恋人と一緒に観る映画でもないけど。
「これってオリジナルのサントラ?」
「うーん、わかんないけど…。でも、良くない?」
良かった。
4月の夜の雨に、そのアルバムはぴったりと似合っていた。
僕らは「じゃ、」と言ってお互いのアルミ缶同士をぶつけ、今月三回目だ
かのその非情緒的な音響を耳にした。
僕らはいつものようにまず、お互いの仕事の話をした。
お互い、人間関係や、会社の方針について疑問に思っていることを言った。
それは多分、社会人である人の誰が聞いても疑問に思うことで、僕らは
お互いに同情し、憤慨した。僕らは恋人であると同時に、同僚のような
関係でもあった。お互いの視座から、その問題に対しての意見を交換した。
おそらく、世界の何処かで、毎日のように繰り返されているその行為は、
僕らにしては新鮮なことだった。
僕らは、たったつい最近まで、職というものを持っていなかったから。
□
僕らは二人とも、酒が好きだった。
酒と音楽が、身体に染みこんでいくのを感じるのが好きだった。
それまでの、非生産的な日常の中で飲む酒も良かったが、張りつめた神経を
緩めてくれる酒も良かった。その時の酒は、その時の二人にとって、多分、
一番心地良いものだった。
□
アルバムの再生が終わると、それぞれの好きなものをかけた。
僕らは二人で会う時には、ジャズ、ジャズ・ヴォーカルを好んで聴いた。
僕はジャズのことなんて良く分からなかったけど、真里よりはジャズのレコー
ドを沢山持っていた。僕は、その時に聴きたいものを、何も考えずにかけてい
ただけなのだけど、真里は学生時代楽器をやっていて、その楽曲のフレーズや、
リズムを、その優れた部分を僕に解説してくれた。
でも、僕が一番好きだったのは、真里がその曲のメロディーをなぞる時だった。
真里の声は、良く通った。
素直で、とても良く通る声だった。いつも隣の部屋からの苦情を恐れての、抑え
た声だったけど、僕はそれを美しいと思った。
できることなら、いつまでも僕はそれを聴いていたかった。
僕はいつも耐えきれずに、真里と一緒にそのメロディーをなぞった。
真里の声とハーモニーが取れると、僕の声までが生命感を持ったかのように聴こえた。
メロディーは大体、悲しさや、恋を辿った。僕らは時々目を合わせて、それを確認した。
□
時が過ぎるに連れ、僕らの距離は縮まっていく。
真里の声が耳の近くに聞こえ、髪の匂いがすぐそこに感じられる。
求めていた温もりは、真里は、確かにそこに在る。
僕は、真里を抱きしめる。
そして、重力と共にそこに倒れる。
真里と静かに唇を合わせる。
真里と僕の眼は、お互いを微かに確認し、その一日の役目を終える。
その時に流れている音楽は、僕にはもう聴こえていない。